2006.08.21 Monday
<映画評> グエムル 漢江の怪物
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ/ピョン・ヒボン/パク・ヘイル/ペ・ドゥナ これまでたびたびお知らせしてきたポン・ジュノ監督期待の最新作「グエムル」の試写会に行ってきました。 前作「殺人の追憶」は言わずと知れた2004年度ハカタベスト1位をゲットした完璧なサスペンス映画。 その素晴らしい演出力に感動し、去就に注目していたところ、新作はなんと……怪獣映画!! 川から発生した謎の巨大奇形魚が人々を襲う!しかも特撮を担当するのは「ロードオブザリング」「キングコング」のWETA。 まるで僕のために作られたようではありませんか。 今年最大の期待を込めて行ってきました。 結果……凄いです。これは凄かった。 ただ、「凄さ」が「面白さ」に直結していないもどかしさがあって、そこのところの説明が凄く難しい。 表面的にはまるっきりハリウッドのB級映画の設定を用いながら、中身はすべてそれに対するアンチテーゼで成り立っているというポン・ジュノ一流のブラック・エンターテインメントとでも言うべきシロモノ。 そのアンチっぷりは、わりとローカルな場所で正体不明の怪物が襲ってきて民間人が退治しようとする、という意味で「トレマーズ」などと比較するとわかりやすいと思うのですが、たとえば「笑い」の要素。 あくまで緊張に対する弛緩、観客を和ませる目的であるハリウッドに対し、「グエムル」は単なる笑いの要素で笑わせない。笑いを取るべき主人公のマヌケな行動で主要人物が死んでしまったりする。これは笑えない。「そんな状況で笑えるか?」というハリウッドに対する痛烈な皮肉。 簡単に人を殺すことが痛快であるかのようなハリウッドに対し、「人が死ぬことが楽しいわけないだろう」といった暗黙のメッセージが地雷のように埋め込まれ、表面上はかなりたくさんあるユーモアがかえってだんだん恐ろしくなってしまう。 宣伝ではほとんど姿を隠されている怪物が、開始十分ほどで思いっきり白日の下に登場するのもアンチハリウッドですね。これは痛快で爆笑しました。 なかなかまだ評価の定まらない難しい作品ですが、監督の実力とその方向性の鋭さは素晴らしいと思います。僕と同い年か……。 世界的に見ても、これはスピルバーグやクロサワに匹敵する、稀有な才能の登場だと思います。この瞬間にリアルタイムで立ち会っているという感覚が本当に嬉しい。 |