2005.09.19 Monday
<書評> モーダルな事象 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活
著者:奥泉光
出版社:文藝春秋(本格ミステリマスターズ) 僕は奥泉光とは今ひとつ合わない部分があったんですが、今回はピッタリ来ました。ジャストです。フィットです。 上手い。本当に上手い。そもそもミステリというジャンルへの懐疑意識の豊富な人でしたが、懐疑意識自体をエンターテインメントとして取り込んでまさに見事な仕上がり。 登場人物にメタ的な探偵である意識を背負わせつつ、混乱させずにわかりやすいエンターテインメントになっている最大の理由は、とにかく文章が素晴らしく面白い、ということに尽きる。 いわゆる流麗な美文とは違うのだが、一文が長いのに、論旨が明快で、ユーモアに溢れていてわかりやすい。これはハカタ的には高島俊男に次ぐ名文家ですね。いいなあ。 プロット的にも、たとえば話の骨子としては、駄洒落大辞典を編纂した春狂亭猫介などは不要と思われるのだが、同じ駄洒落を執拗に登場させ、最後にはもはやそれなしでは成立しないようなパーツへと錯覚させる。なんなんだろう、この感覚。すべて計算のうえなら本当に頭のいい人ですね。そしてこれは絶対計算してやってるんでしょう。 参りました。今年のベスト級です。 |