伯方雪日の罵詈淘奴日記

罵詈淘奴=バーリ・トゥード=ポルトガル語で「なんでもあり」です
CALENDER
<< April 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
+SELECTED ENTRIES
+RECENT COMMENTS
+RECENT TRACKBACK
+CATEGORIES
+ARCHIVES
+LINKS
+PROFILE
+OTHERS
恒例・今年のベスト(書籍編)
さて、今年も極私的ベストを決めます。
基本的に、今年発行の本から選びました。フィクション、ノンフィクションごちゃ混ぜです。
一応読んだときの感想をリンクしているけど、今年はちゃんとした感想を書いてないのであまり意味なかったかも。
1位と2位は併せ技一本ともいえる。

1位「実録!! 極真大乱」家高康彦(東邦出版)
2位「大山倍達正伝」小島一志・塚本佳子(新潮社)
3位「独白するユニバーサル横メルカトル」平山夢明(光文社)
4位「ひとりっ子」グレッグ・イーガン(早川書房)
5位「獣どもの街」ジェイムズ・エルロイ(文藝春秋)
6位「シャドウ」道尾秀介(東京創元社)
7位「柳生雨月抄」荒山徹(新潮社)
8位「犬坊里美の冒険」島田荘司(光文社)
9位「ウェブ進化論」梅田望夫(筑摩書房)
10位「ウロボロスの純正音律」竹本健治(講談社)
11位「邪魅の雫」京極夏彦(講談社)
12位「包帯クラブ」天童荒太(筑摩書房)
13位「狂嵐の銃弾」デイヴィッド・J・スカウ(扶桑社)
14位「MORILOG ACADEMY 1〜4」森博嗣(メディアファクトリー)
15位「Op.ローズダスト(上下)」福井晴敏(文藝春秋)


| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 01:45 | comments(17) | trackbacks(172) |
<書評> ひとりっ子
著者:グレッグ・イーガン
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)


今年最後に読んだのはこれ。毎年恒例になりつつある年末のイーガン祭りか(昨年は「ディアスポラ」、一昨年は「万物理論」)。
今回は短編集。これがまたいいのよ。どれもこれも発想の素晴らしさと理論的裏付け、それをうまく生かすストーリー。すごいなあ。
要するに、過去繰り返されてきたさまざまな哲学的思考実験を、物理的なテクノロジーというガジェットで小説化する、という試みか。
その意味で、「ふたりの距離」などはまさにその典型。完全な同一性を持った二者を完全な同一環境においたらどうなるか?
冷徹な実験に対するウェットな心理描写が素晴らしい。

この本のメインはラスト二つの中篇「オラクル」と「ひとりっ子」だと思うし、実際共に面白く、特にこの二作の関連が見えた瞬間の感動は素晴らしいものだったが、一番のお気に入りは「ルミナス」。
数学が原初より内包していた「不備」を見つけてしまった二人の逃避行サスペンス。いいねえ。いいよ。血沸き肉踊る設定だ。

相変わらず時間はかかるけど、ずっしり読み応えあり。面白かった!

| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 01:21 | comments(12) | trackbacks(396) |
最近読んだ本
竹本健治「ウロボロスの純正音律」(講談社)

実名作家が虚実に入り乱れるウロボロスシリーズ三作目。
竹本健治が漫画を描くために借りた『玲瓏館』にて起こる連続殺人。綾辻行人、京極夏彦、北村薫などによる推理合戦。
今回は、非常にまっとうな本格。え?ひねらないの?と思いつつ、それ自体が捻りであるかのようで、結果的に素直に面白かった。


ディヴィッド・J・スカウ「狂嵐の銃弾」(扶桑社ミステリー)

ヘンな本を訳させたら天下一品(笑)、夏来健次翻訳作品。
はははは、またもやヘンテコリンミステリ。これは面白い。ミステリ的にはかなりの捻りがあるのだが、実はストーリーにほとんど関係なかったりして、素晴らしい展開。しかし完成度はイマイチ。


島田荘司「犬坊里美の冒険」(カッパノベルス)

ハイペースすぎてちょっと荒くなってきた感のある大御所だが、これは面白かった。文章や表現としてはどうよ?ってところが結構あるのに、読み出すとものすごいリーダビリティ。すごいなあ。


他何冊か読んだけど、イマイチのものや、感想忘れてるものもあるので割愛。
来年はいっそう更新頻度が減るかも。その分表に出る仕事が増えればいいんですが。どうなるんだろう。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:08 | comments(16) | trackbacks(22) |
最近読んだ本
ジェイムズ・エルロイ「獣どもの街」(文春文庫)

今の僕が、最も好きな作家を一人挙げよと言われれば、それはエルロイになるかもしれない。
悪夢のブツ切れ文体を完成させた「ホワイト・ジャズ」は、そのぶっとびさに、いったいオリジナルはどういう表現なのか原書まで買ったほどだ(もちろん通してなど読めない。気になる部分を確認しただけ)。
そのエルロイ、「アメリカン・デストリップ」以降もう五年も訳書が出ておらず、禁断症状が出かかっていたころようやく本書が出たわけだ。
中編集ということで、いつもの錯綜しすぎて作者にも制御不能と化したかのような(それすら綿密な計算にも見える)暴走プロットはないが、そんなこたいいんです、エルロイが読めりゃあ。
慈しむように一編一編読みました。ああ、たまらん。主役二人のめちゃくちゃな関係性がもうエルロイ天国かつエルロイ地獄。何言ってんだ俺。
頭韻踏みまくった翻訳もご苦労様でした。


道尾秀介「シャドウ」(東京創元社)

「向日葵」で打ちのめされて以来、道尾さんの本は全てチェックしているのだけど、何ですか、この人。上手くなるスピードが尋常じゃない。
ぎこちなさが武器だったような「向日葵」に比べ、滑らかでサスペンスフルな展開は早くも職人芸の感も。
そして、ラストに炸裂、道尾節。またもややられた…。あんたすげえよ!


平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル」(光文社)

これは今のところ今年のベストかな。
短編集だけど、ひとつひとつの話が全てそのまま、まったく別の長編に使える素晴らしく魅力的な設定に溢れていて、もうもったいないことこの上なし。
表題作は、タクシーの運ちゃんの横に置かれた道路地図の独白というけったいなシロモノだが、驚異的な面白さ。人間は誰も知らない地図族の歴史とか、忠実な執事キャラとか、編図との淡い恋とか、面白すぎ。わりと普通のサイコキラーものが、視点をずらすことによって究極のオリジナリティとも言うべき傑作に。
ナビゲーションシステムに毒づく地図ちゃんがかわいい(笑)。



| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:44 | comments(14) | trackbacks(17) |
最近読んだ本3
京極夏彦「邪魅の雫」(講談社ノベルス)

ついに出たシリーズ最新作。
うーん、これはどうか。後半急ぎすぎでバタバタ事件が起こるので、このネタならもっと長くして前半のネットリ感を続けて欲しかった。
あと、事件の性格的に、京極堂の憑き物落としシーンにあまりカタルシスがない。その人たちに長々演説ぶってもしょうがない気が。そもそも京極が出てくる必然性も薄いような。
面白くないわけじゃないです。ハードル高いだけで。


乾くるみ「リピート」(文藝春秋)

タイムスリップものですが、これは面白かった。
ありえない状況における設定をきちんと作って、その中で成立する論理で遊ぶ。いいなあ。こういうの書いてみたい。


島田荘司「UFO大通り」(講談社)

黄金期の御手洗もの中編を二編収録。
異常すぎる事件をあれよあれよと収束させる力技は見事なのだが、メインとなる部分のトリック(というかネタ)が二つともまったく同じというのはどうなんですか。
「傘を折る女」は最初の章(御手洗が安楽椅子的に推理する)だけでもいいと思った。


道尾秀介「骸の爪」(幻冬舎)

早くも確立しつつある道尾節の炸裂。いくらなんでもそこまでわかっちゃうのか探偵の人、と突っ込みたくなるような、伏線とその回収のてんこ盛り大サービス。すげえ。


| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 20:40 | comments(27) | trackbacks(103) |
最近読んだ本2
スーザン・A・クランシー「なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか」(ハヤカワ文庫NF)

アブダクションの、というかアブダクティーの心理を研究する学者によるノンフィクション。
どうも著者にこのテーマに関する熱意が感じられなくてあまり面白くない。特に目新しい視点もなし。


山田正紀「カオスコープ」(東京創元社)

御大にしていまだに新しさに挑戦し続ける山田正紀の最新作。
なかなか世界観が掴みづらいけど、見えてからは一気、というさすがSF畑のヒトの本。これはなかなか。
「ある映画にインスパイアされて書かれた」と書いてあったので、「ふふん、あれだな」と思って創元の編集さんに訊いたら、まるで違ってました。とほほ。


多田文明「ついていったらこうなった」(彩図社)

キャッチセールスや宗教勧誘、電話営業などに対する体当たり潜入レポート。
すごく面白そうなネタなのに、うーむ、つまらんなあ。
この人、ミョーに頼りなくて、向こうの言うことに納得しそうになったりして危なっかしい。
文章も練れてなくて突っ込みも甘い。


島田荘司「光る鶴」(光文社文庫)

ノベルス「吉敷竹史の肖像」に書き下ろし短編を加えての文庫。
最近島田荘司は狂ったように本を出していて、文庫化や全集にまで加筆や書き下ろしを加え、鬼神のごとき仕事量。
とはいえ、その荒さには少々疑問も。
この本の書き下ろし短編「電車最中」もそう。いくらなんでもこれはちょっと。
鹿児島の刑事が吉敷と旧交を温める、という話ならその部分だけでいいのに、めちゃめちゃ中途半端なミステリともいえないような奇妙な話にされ、ちょっと萎え。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 02:21 | comments(10) | trackbacks(0) |
最近読んだ本その1
すっかり更新遅れてますな。まあいいや。
読んだ本全てをレビューしているわけではありません。


道尾秀介「背の眼」(幻冬舎)

「向日葵の咲かない夏」で打ちのめされた道尾秀介のデビュー作。
これまたいいです。いろんなネタを惜しげもなくガンガンつぎ込んでくる姿勢に好感。作品はホラー感バリバリながら、本人は妙に軽い人です(笑)。


大森望/豊崎由美「文学賞メッタ斬り! リターンズ」(パルコ出版)

定石どおり前作よりパワーダウン(笑)。該当本を読んでなくても十分に面白かった前作に比べ、「読んどいたほうが面白いな」程度になっちゃった気が。


アレックス・バーザ「ウソの歴史博物館」(文春文庫)

もっと面白くなれるはずなのに、もどかしい。
現代もののほうが面白そうなのに、古い話が多くて残念。
あと図版とかもっとあればなあ。


石持浅海「顔のない敵」(カッパノベルス)

対人地雷ミステリー短編集。ってなんなんだ(笑)。
この人が根っから本格だなあと思うのは、どうやったかとか誰がやったかとかには緻密で面白い論理でグイグイ迫るのに、犯人そのものへの処断とかその後についてはすっげえ淡白なところ。
この乾いた感覚は好みです。


小島一志/塚本佳子「大山倍達正伝」(新潮社)

メタクソ面白かった。「実録!! 極真大乱」と双璧をなす今年のベスト本。
「空手バカ一代」で築き上げられた大山倍達というファンタジーを、徹底的な取材でひとつひとつ突き崩していく。
何がすごいって、これだけ全てがウソだったことが露呈されながら、著者の心にも、読者の心にも依然大山ファンタジーが厳然と存在し続けていること。


まったく関係ないけど、ラーメンズ片桐さんに自著をプレゼントしました(画像掲載の許可は得ています。無断転載を禁じます)。

| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:53 | comments(9) | trackbacks(3) |
最近読んだ本
まとめていきます。

高島俊男「お言葉ですが…7 漢字語源の筋ちがい」(文春文庫)

年に一度のお楽しみ。このシリーズ、家では常に食事やトイレの片手間に読み返していて、読み終わるごとにまた一巻から読み返します。
読みやすさバツグンの名文と、圧倒的でさりげない知識量に毎度感動。


岩波明「狂喜の偽装 精神科医の臨床報告」(新潮社)

「精神科医の臨床報告」といえばそうだけど、あまり「狂喜の偽装」に関する話はなかったような。まあ、そうだろうな、というまっとうなことばかり。


家高康彦「実録!! 極真大乱」(東邦出版)

今のところ今年のベスト。大山倍達が死して後、分裂に次ぐ分裂でズタズタになっていく極真会館を間近でつぶさに見てきた男が全てを記す。
強い思い入れと、客観性を保とうとする意識のせめぎあいが素晴らしい緊張感を生んで、めちゃくちゃ面白い。


小松左京「日本沈没(上・下)」(小学館文庫)

映画を見る前に、というよりは第二部を読むために。
素晴らしい。「日本が沈没する」というハードSF考証もいいが、タイムリミットが近づく中での政府主導による一億人海外脱出計画に大興奮。


有栖川有栖「乱鴉の島」(新潮社)

孤島ものだが、仰々しい過剰な本格ではなく、いつものすっきりスマートな有栖川節。小技が利いてます。


柳田理科雄「空想科学読本5」(メディアファクトリー)

映画読本とか漫画読本とかいろいろ出てたけど、本家のこれは4年ぶり。
相変わらず楽しい。イラストレーターさんの力量が素晴らしすぎ。
柳田さん、お店にいらしたのでサインを頂きました。
「一日一科学 柳田理科雄」うーむ、深いぜ。


小松左京/谷甲州「日本沈没 第二部」(小学館)

めちゃくちゃ読み終わるのに時間がかかった。
前作から二十五年後、世界中に散らばった日本人と地球のその後を描いたものだが、前作のような「日本が沈没する話!」というような明快な柱がなく、ディティールばっかり細かくて、ラスト近くになるまで何の話なのかさっぱりわからない。
やはり若いときに自分で書いて欲しかったな(執筆自体は全て谷甲州が担当)。


マイケル・スワンウィック「グリュフォンの卵」(ハヤカワ文庫SF)

SF短編集。可もなく不可もなく。特に気に入った話もなければ、つまらんものもなし。


小松左京「SF魂」(新潮新書)

若き日のむちゃくちゃな仕事ぶりや、黎明期の日本SF界の面白さがてんこ盛り。
いろんなものを読み、いろんなところに行き、いろんな人の話を聞き、いろんなことをした男。すごい。すごすぎ。



| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:19 | comments(10) | trackbacks(5) |
最近読んだ本
荒山徹「柳生薔薇剣」(朝日新聞社)

「十兵衛両断」で一気にハマった荒山徹第二弾。今回は十兵衛のお姉さん柳生矩香(のりか)が主役。尼寺を守るためばったばったと刺客を斬りまくります。尼さんたちからの羨望の眼差しを受け、ほとんどノリは宝塚。面白いぞ!


荒山徹「柳生雨月抄」(新潮社)

続いて第三弾。「薔薇剣」は番外編的だったが、今回は「十兵衛両断」の直接の続編で、今回から主役が希代の陰陽師にして柳生一族でもあり、魔物も惚れ込む美形、柳生友景にフィックス。
時の天皇のお墨付きまで得て、朝鮮が送り込んでくる剣士や妖魔と闘いまくり。
ちなみに朝鮮妖術師が使役する巨大な蛾の怪物の名は慕漱蠡(もすら)といいます。うははは。
「高句麗の始祖王朱蒙{チユモン}の父・解慕漱{ヘモス}が頤使{いし}した蠡{ラ}であるを以て、慕漱蠡なる名前の由来とされている」そうな。
このわけのわからん朝鮮文献の引用が毎度楽しい。このパターン見たことあるなと思ったら、「男塾」の民明書房なのね。
ちなみに朝鮮王族を守る男装の麗人剣士団があり、もちろんその代表は呉淑鞨(オスカル)と安兜冽(アンドレ)。もうめちゃくちゃやな。
めちゃくちゃが好きな方にはオススメです。


森博嗣「MORILOG ACADEMY 2」(メディアファクトリー)

森博嗣のウェブ日記を本にするこの企画、今回三カ月おきの刊行ということで(以前の日記シリーズは年刊)、あ、これこないだ読んだなというサイクルの速さがちょっと欠点かな。
意識して「銭の取れる日記」をプロデュースしようとするその一貫した姿勢、思想がやはり素敵で、読んでいて気持ちいい。
もう小説は読まなくなったけど、やはりこれだけは追い続けます。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 11:56 | comments(8) | trackbacks(16) |
久しぶりに、最近読んだ本など
もうサボりすぎて面倒になったので、凄まじくアバウトな点数だけ。

・福井春敏「Op.ローズダスト(上・下)」(文藝春秋) 75点
・平野啓一郎「顔のない裸体たち」(新潮社) 75点
・木原善彦「UFOとポストモダン」(平凡社新書) 70点
・梅田望夫「ウェブ進化論」(ちくま新書) 80点
・猪俣謙治・加藤智「ガンプラ開発真話」(メディアワークス) 70点
・吉田戦車「戦車映画」(小学館) 65点
・ローリー・リン・ドラモンド「あなたに不利な証拠として」(ハヤカワ・ミステリ) 60点
・道夫秀介「向日葵の咲かない夏」(新潮社)90点
・池田清彦「他人と深く関わらずに生きるには」(新潮文庫) 75点
・と学会「トンデモ本の世界」(洋泉社文庫) 85点
・夢枕獏「キマイラ青龍変」(朝日ソノラマ) 70点
・夢枕獏「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す(全四巻)」(徳間書店) 80点
・森博嗣「森博嗣のTOOL BOX」(日経BP社) 80点
・大崎梢「配達あかずきん」(東京創元社) 70点
・と学会「トンデモ本の逆襲」(洋泉社文庫) 80点
・荒山徹「十兵衛両断」(新潮文庫) 95点

ざっとこんな感じ。奇想爆発の「十兵衛両断」が拳を振り回す面白さでした。朝鮮妖術で柳生一族がどんどんコピーされちゃってほとんど「複製人間ブルース・リー 怒りのスリー・ドラゴン」の世界(笑)。
「向日葵の咲かない夏」も凄い。ミステリ読みは見逃さないように(>宮本、読んどけ)。
すっかり読書はスローペース。読む本溜まってます。
図書館の本優先なので、早く温存してある「実録!! 極真大乱」を読みたいです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:00 | comments(7) | trackbacks(3) |
最近読んだ本
今回もまとめていきます。


連城三紀彦「戻り川心中」(光文社文庫)

短編集。なんか最近再評価ブームがある感じだったので読んでみた。
すんげえ面白い。ある意味無茶とも言える強引な動機・トリックを、哀切と叙情の塊で包みこんでしまうのだが、圧倒的なテクニックで泣けるほど感動的なものにしてしまって乱暴さはまったく消えうせてしまう。上手すぎる。


柄刀一「ゴーレムの檻」(光文社カッパノベルス)

短編集。あまり詳しい感想は述べないほうがいいかな。本格ミステリ大賞の投票用なので。
「太陽殿のイシス」が素晴らしかった。


森博嗣「MORILOG ACADEMY 1」(メディアファクトリー)

待望の森日記復活。今回は最初から文庫で出すという新形態にも拍手。
何度も言うが、森博嗣の最高傑作は5作ある日記シリーズである。
インターバルを置いて再開したこの日記ではまた新しい視点でどんどん眼を開かせてくれるだろう。楽しみ。


スローガン編「ヘビメタさん」(アスペクト)

あの伝説のメタルバラエティの書籍版。
衝撃的なまでに誤字、写真間違い、コピペミスの嵐。
内容はともかく、編集・校正がプロの仕事ではない。
「ヘビメタさん」を愛するがゆえに糾弾してやる。
作り直せ!


と学会「と学会年鑑 YELLOW」(楽工社)

毎度毎度のトンデモ物件発表会とトンデモ本大賞の授賞式レポート。
今回は「山海経」をめちゃくちゃに解釈する中国のトンデモ本が面白かった。
フラットウッズモンスターの骨格標本、俺も欲しいなー。


とりあえずこんなとこで。
長編小説は300枚超えたとこですが、肺炎騒動で一休み中。
リフレッシュしてからまた攻めます。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 23:27 | comments(153) | trackbacks(120) |
最近読んだ本
絶賛風邪引き中。まとめていきます。


池田清彦「環境問題のウソ」(ちくまプリマー新書)

本当にCO2は増えているのか、はっきりとデータをそろえて京都議定書の無意味さをケチョンケチョンにけなし、ダイオキシンが本当に危険かどうかを説得力バツグンに斬りまくる。
いやあ面白い。あいて言い過ぎているようなところもあるが、アンチ環境派としてはこれくらいのカウンターパンチのほうが有効だろう。
理路整然たる頑固ジジイ。俺の理想。


森達也/森巣博「ご臨終メディア」(集英社新書)

核のないまま巨大化してしまった日本のメディアの問題点をぶった斬る対談集。
基本的に森巣が極端な暴論的正論を吐いて、森がフォローの補足解説、という感じで、読みやすく面白い。
ただ、(特にテレビ)メディアの未来に対してはどんどん暗澹となる気分にさせられる。


鴻巣友季子「明治大正翻訳ワンダーランド」(新潮新書)

タイトルどおり、日本の翻訳黎明期のいろいろあったエピソードをいろいろ紹介。
妙に軽いエッセイ調のノリで、あまり肌に合わず。
「フランダースの犬」でパトラッシュが「斑(ぶち)」、ネロが「清」とかなってるのに笑った。ぶちて。名前変えんなよ。


相変わらず読書ペースがた落ち中。
新作長編は現在250枚超。なんとか春中には形にしたいところです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 03:48 | comments(6) | trackbacks(27) |
最近読んだ本
ちょこちょこ読んではいるけど、更新遅れてだんだんめんどくさくなってきたので簡潔に。

東雅夫・紀田順一郎編「日本怪奇小説傑作集2」(創元推理文庫)

ベストは奇想爆発の山田風太郎「人間華」。すばらしい。三島由紀夫「復讐」も好み。いいなーこのアンソロジー。


アヴラム・デイヴィッドスン「どんがらがん」(河出書房新社)

面白くなくもない、という感じのSF短編集。「だからどうした?」という話を「奇想」と美化されても。
表題作「どんがらがん」はちょっと好み。


と学会「トンデモ超常現象99の真相」(洋泉社文庫)

長らく版元品切れだった名著が文庫で復活。
何度読んでも楽しいです。「まず、本書を疑うことから始めよう」という非常にニュートラルな懐疑主義の呼びかけが潔い。


ブライアン・ラムレイ「タイタス・クロウの事件簿」(創元推理文庫)

マイミク夏来さんの翻訳作品。読むのが遅くなりました。
解説の朝松健さんも言われてましたが、各話のレベルに差がありすぎのような。
「名数秘法」とか事後の語り聞かせの形式にしちゃうと迫力半減な気がしたんですが。
SFやモダンホラーは好きだけどファンタジーは苦手なハカタとしてはこの作品の位置は微妙でした。
短編では少し物足りなかったので、「地を穿つ魔」も近々読ませていただきます。
文語調の翻訳とか難しそうですね。これからも頑張ってください。>夏来さん






| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:14 | comments(7) | trackbacks(6) |
<書評> 包帯クラブ
著者:天童荒太
出版社:筑摩書房


「永遠の仔」以来七年ぶりの天童荒太の書き下ろし。
ゲラで読ませていただく機会を得ました。
「人の心の傷」に対し常に自身の思いを過剰なまでに作品に注ぎ込んでしまう彼ならではの、まさにリアルタイムな天童荒太がここにある。
「家族狩り」→「永遠の仔」→全面改稿文庫版「家族狩り」→本書、という流れを俯瞰すると、ああ、こういうのを書かねばならなかったんだな、というのが実に納得できる。そんなお話です。
「傷」を描くための殺伐とした描写、設定というのは今回ほとんどありません。フレームを小さくして、身近な悩みに対し優しく思考する、静かな佳品です。
同じような話はいろんな人が書いてるかもしれませんが、「天童荒太の歴史」が確かに刻み込まれているからこそ、この本のせつなさと優しさが際立つのでしょう。
面白かったです。

それにしてもなんでこれがちくまプリマー新書で出るの?
まあいいか。二月に発売予定です。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 07:11 | comments(6) | trackbacks(3) |
<書評> デカルトの密室
著者:瀬名秀明
出版社:新潮社


面白かった。
タイトルからして密室殺人ミステリと思いきや、かなり形而上的問題を含んだSFでした。
人はなぜ意識をひとつしか持てないのか?
そう考える意識は自分と不可分なのか?
「ロボット」をモチーフに、デカルトの根本思想「我思う、ゆえに我あり」に対する、「意識」というものへのまったく新しい概念の提示。
ハードSF的手法でディティールを積み重ねながら、物語を破天荒に拡散させるのが瀬名作品のキモ。そういう意味ではラストの爆発が少し足りなかったかな、とも思いますが、このテーマでエンターテインメントできるというのは素晴らしい筆力だと思います。
常に「学者」としての視点と「物語作家」としての視点がギリギリでせめぎあっているのが魅力です。
オススメ。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 06:57 | comments(6) | trackbacks(2) |
<書評> ディアスポラ
著者:グレッグ・イーガン
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)


西暦30世紀、「肉体人」として生きることを選んだ一部の保守主義者以外、すでにほとんどの人類は「ポリス」と呼ばれる仮想空間内に精神をソフトウェア化して移入していた。
すでに宇宙の叡智を手にしたかのような人類だったが、数百万年後と思われていたトカゲ座中性子星のバーストにより肉体人は絶滅の危機を迎える。
「まだ宇宙には自分たちの知らないことがある。」そう考えた一部のポリス人は、その謎を解くため、そしてその謎を知る知的生命体に出会うため、自身たちの千のコピーを作製し、宇宙の千の方向に射出するという「ディアスポラ計画」を発動させた…。
というのが骨子ですが、さすがにイーガン。ハードSF過ぎてもうなに書いてるのかわけわからん状態が凄まじい。
ポリス人はコンピュータ上で動いているのですでに肉体人とは時間の感覚が異なっており、巻末の換算表によれば、肉体人にとっての32年は、ポリス人の主観時間では27000年! そもそもポリスが破壊されない限り物理的に死ぬという概念がないので、彼らの旅は主観時間で数百万、数千万年続きます。もちろん、なにか生命体の兆候が見つかったときのみ起動するスリープ状態に設定したり出来るわけですが、それにしても壮大すぎ。
ポリスが数十年に一度ランダムに誕生させる「孤児」の発生から成長、自我に目覚めるまでを描いた第一章は全身総毛だつ素晴らしさ。
「SFの愉悦」を心ゆくまで堪能できます。まったくすごい。
本年度ベスト1。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 20:05 | comments(8) | trackbacks(4) |
<書評> 悪役レスラーは笑う
著者:森達也
出版社:岩波書店(岩波新書)


うおお、岩波から森達也の書いたプロレス本て!
とびっくりしましたが、正確にはプロレスについて書いた本ではなく、あくまで「グレート東郷」という悪役レスラーに焦点をあわせたノンフィクション。対象がたまたまレスラーだったということです。
東郷は日系二世として、終戦後のアメリカのリングで日本人に対する憎悪を一身に背負って悪役を演じ続けた男。
守銭奴として業界のあらゆる人間に嫌われながら、なぜか力道山からは慕われた男。
その力道山との関係に焦点を当てながら、東郷の出自にまで突っ込んでいきます(力道山は在日一世)。
そして最後にインタビューしたグレート草津から衝撃の発言が飛び出す。
いや、上手いなあ。淡々と調べた事実を書くのではなく、あくまで「森達也の主観」を赤裸々に露呈し、過程を丸ごとさらけ出す手法はいつもながら静かな感動を呼びます。
双子のように誕生してもつれ合って、やがて別れたプロレスとテレビの関係といったメディア論も盛り込み、780円でこんなの読めるとは。
よかったです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 11:44 | comments(8) | trackbacks(0) |
<書評> 人類の月面着陸はあったんだ論
著者:山本弘/植木不等式/江藤巌/志水一夫/皆神龍太郎
出版社:楽工社


アポロの月面着陸は、当時の宇宙開発競争でソ連に負けじと焦ったアメリカによる壮大なデッチアゲだった。
曰く、真空なのに旗がはためいている!
曰く、セット撮影しているであろうために、影の向きがおかしい!
曰く、宇宙飛行士を引っ張るためのフックが宇宙服についている!
などなど、国家がらみで騙そうとしているやつらがそんな初歩的なミスするかよと、「アホゆうな」と笑ってやれば済む話なのだが、メディアが絡むとやばい。
テレビ朝日で大真面目にそのネタを取り上げてしまったために、窪塚洋介など信じてしまう人が続出しまったのだ。中でもいちばんタチが悪かったのが、自称『碩学』副島隆彦だった。なんだかいろんな本を書いていて権威はありそうだが、何の専門家かよくわからない。少なくとも宇宙や物理の専門ではないはずなのだが、「人類の月面着陸は無かったろう論」などという本を出版し、「これが間違っていたら私は筆を折る!」とまでどうどう帯に書いてしまった。
根本的な事実誤認、初歩的な間違いや、ぶっ飛んだ文章など、あまりにおかしなその本は「2005年トンデモ本大賞」を受賞し、こうしてと学会による反論の書が出たのであった。
いや、ほんと僕は副島氏の本は読んでないのですが、ここに引用されている部分だけでもすごすぎます。事実を知らないとか間違ってるとか以前に、本を書くに当たってまったく調べようともしない無責任な姿勢、主語と述語の対応すら出来ない小学生以下の文章力はまさにトンデモ。爆笑しました。
もちろん本書はその反論部分がキモなのですが、それ以外に、どうやってこのデッチアゲ説が生まれてきたのかという歴史の丁寧な解説、テレビ朝日の番組の検証など、非常にためになり、面白いネタ満載です。
いやー笑えました。いい本です。オススメ。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 12:24 | comments(10) | trackbacks(36) |
<書評> 千里眼事件 科学とオカルトの明治日本
著者:長山靖生
出版社:平凡社(平凡社新書)


だいぶ以前に読んだ「偽史冒険世界」(ちくま文庫)が面白くて、この著者には注目していました。そのわりに「日米架空戦記集成」(中公文庫)とか「日露戦争」(新潮新書)とか買ったまま読んでないけど。
で、この千里眼事件です。いわずとしれた、明治時代に一大ブームとなった透視、念写の科学的解析がでっちあげだったのか、というあの話です。わかりやすくいえば、「リング」の貞子のモデルですね。
ま、僕はその場にいたわけじゃないし、この事件について研究しているわけでもないけど、やはりこれはでっちあげでしょうね。なにしろ厳正に実験すべき福来博士の態度が怪しすぎる。
しかし、実験としてはお粗末としても、学会の派閥争い的なことで妨害されたり、謎の催眠術師が介入してきたり、その流れが面白すぎ。
歯科医のかたわらこういうことを丹念に調べて書く著者に、敬意。いい仕事です。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:46 | comments(8) | trackbacks(4) |
<書評> オーケンのほほん学校
著者:大槻ケンヂ
出版社:イースト・プレス


新宿のロフトプラスワンでだらだら開催されている「オーケンのほほん学校」。テキトーにゲストを呼んでテキトーにしゃべるイベントが関西初上陸!
というわけで十月に行われた大阪バナナホールでののほほん学校出張版に行ってきました。この本はそこで先行販売されていたものです。なんと1365円がびっくり1350円で! 小さい値引き! てか本を値引きしていいのか? まあトークをまとめただけとはいえ、名場面集DVDがついてこの値段は安い。しかもサイン入り。あ、DVDまだ見てないや。
トークは確かにだらだらしていて面白かった。登場までの間オーケン秘蔵面白ビデオが次々に流されてむしろそれだけをひたすら見るイベントでもよかったかも(笑)。以前SRSでもやってたスコップ喧嘩術とか(肉体労働者が町で喧嘩になったとき、手に持ったスコップでいかに戦うか、という解説ビデオ)、大東流合気柔術の凄い先生の空気投げとか、さすがのコレクションです。
あ、本のこと書いてないや。まあそういうだらだらトークです、はい。ひたすら。水野晴郎ゲストの会が面白かったです、はい。「シベ超」はデ・パルマやゼメキスにパクられてしまったそうですよ。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 10:31 | comments(7) | trackbacks(4) |
<書評> 最後の一壜
著者:スタンリイ・エリン
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ)


エリン読むのは初めてです。
もっとガチガチの本格かと思ってました。
ミステリというより、オチのひねりの効いたちょっと粋な短編小説、て感じですね。うん、なかなかいい感じです。
お気に入りは「127番地の雪どけ」「警官アヴァカディアンの不正」「天国の片隅で」「内輪」あたり。
どれも事件がおきて、犯人が捕まって一件落着、という着地点ではないのが面白い。なるほど、こういう視点アリなんだな、と目からうろこでした。
うん、いいです。オススメ。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:04 | comments(8) | trackbacks(0) |
<書評> 少女には向かない職業
著者:桜庭一樹
出版社:東京創元社(ミステリフロンティア)


はたと気づきましたが、実はこのミステリフロンティアシリーズ、自分以外のを読むのは初めてや! いいのかそれで。ははは。
ええと、なかなかよかったです。
少女の残酷性というのはわりとありふれたテーマだとは思いますが、少しづつ外していく感じが好印象です。
ラストはああ、そこまでやっちゃうか的なところまでいっていて、「少女」という存在自体の華やかさと事態の陰惨さとの対比が、「リアルじゃない」という批判を超えてファンタジーと化していて成功しています。
面白かったです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:09 | comments(7) | trackbacks(4) |
<書評> 百番目の男
著者:ジャック・カーリイ
出版社:文藝春秋(文春文庫)


本年度バカミスナンバー1の呼び声高く、気になっていたので読んでみました。

アラバマ州モビールでおきた連続首切り殺人事件。被害者は首を切り取られていただけでなく、へその下には意味不明のメッセージが書かれていた。
一年前にシリアルキラー犯罪を解決した手腕を買われ、新設された精神病理・社会病理捜査班(二人だけ)に抜擢された若きカーソン刑事が事件を担当することになったが、彼を快く思わない上司に振り回され、捜査は思うように進まない。
暗い過去を持つカーソンは、一年前の事件のときにも取った「奥の手」を使うが…。

うーーーむ、なるほど。バカミス的には被害者に書かれたメッセージの意味が解明される瞬間が見所。なるほど、これは凄い。正直それほどバカとは思わず、わりと素直に感心してしまいましたが。
それ以外にも、カーソンの暗い過去を用いた悲しいほどつらい捜査法や、クライマックスのそこまでしなくても、というくらいの川渡り活劇など、見所というか突っ込みどころ満載でかなり面白い一冊でした。
アメリカでは続編が出るそうで、これは期待。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 18:39 | comments(11) | trackbacks(0) |
<書評> 摩天楼の怪人
著者:島田荘司
出版社:東京創元社


満を持して老舗の創元からついに御手洗モノが。しかも大長編。
舞台は1969年。コロンビア大学助教授だった御手洗は、死に瀕した大女優からの挑戦状を受けるはめになる。
その女優、ジョディ・サリナスは、1921年、自身が今も住む高層アパートで、停電中のわずか15分で34階の自室から1階に住む男を銃で殺したというのだ。エレベーターも停止していたので降りて戻ってくるのはまず不可能。
果たしてどうやったのか。しかも彼女自身がどうやったのかわからないというのだ。その謎を御手洗に託し、彼女は死んだ。
そしてこのアパート、セントラルパーク・タワーには他にも数々の謎めいた殺人事件が行われた現場だったのだ。

いやはや、相変わらず風呂敷広げてくれますぜ。どう考えてもそら無理だろ!的な謎を投げつけて、腕力で収束させてしまう強引手法は嬉しくなるほど健在。
もはやツッコミは野暮なだけと感じさせてくれるのがさすがの貫禄です。
はい、面白かったです。拍手。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:20 | comments(7) | trackbacks(2) |
<書評> 哲人アリストテレスの殺人推理
著者:マーガレット・ドゥーディ
出版社:講談社


タイトルどおり、古代ギリシャを舞台におきた殺人事件をアリストテレスが推理する本格ミステリです。以上!
……と終わりにしたいくらいそれだけの話です。
なんだか、古代ギリシャのディティールに深みがなくて、どうにも作者の本気度が見えない。原文がそうなのか知らないけど、翻訳も古代ギリシャでその言い回しはないだろ、と言いたくなる感じでもどかしい。例えて言えば、時代劇で「ラッキー!」とかいうセリフ使ったりするような。
年末ベストに向けて新刊をいろいろ読んでるところなんですが、国内も海外もいまだ本命不在。先日書いたように今年は映画もピンとくるのがなくて、やはり歳のせいなのかなあ。
いやだいやだ。

| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:57 | comments(8) | trackbacks(1) |
<書評> 神様ゲーム
著者:麻耶雄嵩
出版社:講談社


数年前から講談社が力を入れている書下ろしシリーズ、「ミステリーランド」の一冊です。当代人気のミステリ作家にジュブナイルミステリを書いてもらうというシリーズで、活字は大きくルビ入り、挿絵多数というシロモノ。ただ、単価が高く、実質は大人のミステリファンが買っていることが多いんじゃないかと思われます。
で、麻耶雄嵩とジュブナイルというまさに神様も呆れかえるミスマッチが本作。ふははは、もうまったく遠慮なしで不条理な麻耶ワールドが炸裂しまくりです。
麻耶雄嵩が子供のためになるようないい話を書けるはずもなく、またそんなこと期待していないのでなにをしようとかまいませんが、それにしてもこれはひどいのでは。ミステリのコードを過剰に用いながら、過剰に逸脱するという方法論を突き詰める麻耶にとってはある意味標準作とも言える内容だが、「神」を名乗る同級生の正体、「え、それって結局どういうこと?」という不気味な余韻のラストなど、なんにも知らない子供が読んだらこりゃ一生モンのトラウマやで
やっぱりこのシリーズは大人を対象にしてるのかな、と改めて思いました。よいこのみんなは、じゅうぶんにかくごしてから読んでね。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 23:59 | comments(12) | trackbacks(0) |
<書評> サルバドールの復活(上・下)
著者:ジェレミー・ドロンフィールド
出版社:東京創元社(創元推理文庫)


ドロンフィールドは、前作「飛蝗の農場」で「このミス」一位という派手な日本デビューを果たし、そのわりにはあまり読まれず、いい評判もあまり聞かないというなんだか凄いのかかわいそうなのかよくわからない不思議な人です。僕も未読でした。
で、この第二作が邦訳され、上下間の長さに尻込みしていたのですが、出版社さんから頂いたのを契機に読んでみました。
あ、むむむ、ぬうう…えと、あの、これ、なんの話ですか? すみません、ミステリなのかどうかすら不明でした。それくらいわけわからん話。古城を舞台にしたゴシックホラー? 天才ギタリストと女子大生とのハーレクイン張りのラブロマンス? クライマックスに至ってはぶっとびの謎の儀式まで登場。
ううーむ、ハカタ的判断としては、「これはギャグに違いない」という結論です。しかもあまり笑えない。こいつはきついですね。
しかし最近少し思いましたが、どうもここ数年、僕自身の「面白がれる範囲」が着実に狭くなってきているような気がします。この本、たぶん十年前の僕なら大爆笑で面白がってた気がするんですよ。
ああ、そう考えると悲しい。これが年を取るということなのか…? ちょっとマジでつらいです。昔の感覚を取り戻すにはどうしたらいいのかな。すみません、話がずれましたね。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:44 | comments(10) | trackbacks(280) |
<書評> 斬首人の復讐
著者:マイケル・スレイド
出版社:文藝春秋(文春文庫)


というわけで、スレイド二年ぶりの新刊。まず開いた目次に爆笑できます。
「第一部 生首を狩ってみろ」「第二部 生首を斬ってみろ」「第三部 生首を喰ってみろ」なんなんだそれは!各部の章タイトルも凝りまくり。うぷぷ。

今回は「ヘッドハンター」の続編です。かなりダイレクトな続編で、一応「未読でも大丈夫」的なことは解説で言われていますが、まあ宣伝的にはそう言わなければいけないのかもしれませんが、これはやはり読んでおかないと厳しいです。なんせ「ヘッドハンター」事件では微妙な描写だった真犯人が明かされるという展開ですから。
解決したはずの「ヘッドハンター」が舞い戻ってきたのか?という連続首切り事件発生。しかもどうやら別口で首切ってるヤツも混じってるらしい(笑)。←このへんがスレイド
折りしもカナダ先住民族の過激派が蜂起を企て(このへんもスレイド)、スペシャルXは人員を分割せざるを得なくなる。
ヘッドハンターたちを追うディクラークとスパン、先住民族と一触即発の交渉を行うジンク・チャンドラーや<狂犬>ラビドウスキィ。
そして次から次へと明かされる驚愕の真犯人のつるべ打ち。←やっぱりスレイド
相変わらず長すぎるのですが、もうそこもスレイドならではなんで許します。スレイド万歳です。面白かった!

なお、一部解釈に不安があった部分を、翻訳者の夏来健次さんに丁寧に解説していただきました。ありがとうございました。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:51 | comments(12) | trackbacks(1) |
<書評> あの日、少女たちは赤ん坊を殺した
著者:ローラ・リップマン
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫HM)


ハヤカワさんこの秋の一押しらしく、ゲラで頂戴したので読んでみました。
僕は裏表紙のストーリー概要とか解説とか登場人物一覧で、ある程度気構えを作って入り込んでいくのが好きなので、そういうのが何もないゲラというのは、どういう話なのかが掴みづらくてなかなか読みにくいもんですね。
ある夏の日に二人の少女が起こした赤ん坊の誘拐、殺人。七年後施設から出てきた二人は互いに合わずにいたが、その直後から周囲で子供の失踪事件が相次ぐ。以前の事件での被害者の親の密告で再び少女たちに警察、マスコミが近づく。果たして彼女たちと事件とのかかわりは…。
という感じ。少女たちの、なんとも薄い加害者意識というか、無垢な残忍性がかなり怖い。二人の関係の危ういバランス、加害者の親、被害者の親の心理。いずれもなんというかノーマルとアブノーマルすれすれに飛行している感覚が秀逸。ただ、惜しむらくは今ひとつ起伏がなくてなんとも話が盛り上がらないこと。うーん、惜しい。好みではありました。

| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 21:28 | comments(5) | trackbacks(4) |
<書評> ヘッドハンター(上・下)
著者:マイケル・スレイド
出版社:東京創元社(創元推理文庫)


さあ、お気に入りスレイドです。絶版だったのですが、文春文庫が続編を出してくれたおかげで復刊されました。
スレイドが描き続けている「カナダ騎馬警察クロニクル」の一作目であり、デビュー作。
邦訳は二作目の「グール」が最初で、これはもうあまりのハイテンションと狂喜のどんでん返しで「スレイドって頭おかしいんじゃないか」と思われていたようですが(笑)、本来のデビュー作である本作は、いたってシリアスで地に足の着いたサイコキラーもの……で済むわけがないのが、なにしろスレイド(笑)。やっぱり頭おかしいです。
はっきり言ってクライマックスのどんでん返しは、いまだハカタにも意味不明。一応それらしい決着はついたものの、え?結局犯人は○○○でいいの?って感じでなんとも釈然としない。スレイドなら何でもありのハカタは十分に楽しみましたが。
ちなみにディクラーク警視はハカタ脳ではスコット・グレンでヴィジュアル変換されています。「羊たちの沈黙」でのクロフォード役の頃のイメージで。

さて、疑問を残したまま終わった「ヘッドハンター」にはなんと続編があるのでした。というわけで、いま新刊「斬首人の復讐」を読んでます。うへへへ。至福は続く。これでも疑問が解明されなかったら夏来さんに聞いてみます…。最近どんどん理解力が落ちてる気が。

| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 01:58 | comments(9) | trackbacks(1) |
<書評> 容疑者Xの献身
著者:東野圭吾
出版社:文藝春秋


なんだか周囲で偉く評判がよくて、今年のベストなんて噂も聞こえてきたのであわてて読みました。
……んーーまあまあ、かな。そもそもこの物理学者湯川シリーズは東野作品の中ではあまり好きなほうではなくて、それはやはりどうしても東野圭吾の描く「理系キャラ」に対して違和感を拭えないからだろうと思う。
なんだろう、文系の人が想像する類型的な理系というか、なんか安易なんですよね。東野氏はそもそも理系出身だけど、やはりわかりやすくしようとするとこうなってしまうのかな。森博嗣の描く身も蓋もない理系がどうしても好みです。
あと、これはハカタには極めて珍しいことですが、前半でメイントリックが大体わかっちゃいました。これもまた若干興を殺いでしまったということで、残念でした。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 23:19 | comments(6) | trackbacks(0) |
<書評> クドリャフカの順番
著者:米澤穂信
出版社:角川書店


よく知らずに読んだのですが、シリーズ三作目だったんですね。しまった。
まあしかし特に障害もないようだし、読みやすかったのでそのままするっと読み終えました。
文化祭の三日間に各クラブで起こる奇怪な盗難事件。主人公の高校生四人組の視点が順番に入れ替わり、手がかりが集まっていって事件の真相が判明、というオーソドックスな学園青春ミステリです(実も蓋もない書き方)。
この著者、ライトノベル出身のようで(それもよく知らなかった。要するに何にもわかってない)、実はいわゆるラノベってまったく読んだことがなく、まあでもだからといって別に関係ないので素直に読んだら素直によかったです。キャラ立ての仕方なんかにやっぱり特徴ありますね。
でも僕はいわゆる日常系の人が死なないミステリは少し苦手なのでべた褒めするほどではなかったのですが。うん。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:19 | comments(7) | trackbacks(0) |
<書評> 扉は閉ざされたまま
著者:石持浅海
出版社:祥伝社(ノン・ノベル)


大学時代の仲間が久しぶりにとあるペンションに集まり、主人公はそこで仲間の一人を殺害、部屋を密室化するというシーンから幕を開ける。
犯人は最初から判明しているといういわゆる倒叙もの。
綿密に計算して殺人を行う犯人のクールさと、冷静に状況を把握しながら推理していく探偵役の女性のクールさ、作品の根幹を成立させているこの二つの「クール」の微妙な書き分けが素晴らしく、スタイリッシュな表紙も含めてトータルデザインが非常にエレガントに、かつシンプルに決まっている佳作。
いや、これはいいぞ。過剰な意匠を剥ぎ取った素の『本格』っぷりが快感でした。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:05 | comments(7) | trackbacks(1) |
<書評> モーダルな事象 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活
著者:奥泉光
出版社:文藝春秋(本格ミステリマスターズ)


僕は奥泉光とは今ひとつ合わない部分があったんですが、今回はピッタリ来ました。ジャストです。フィットです。
上手い。本当に上手い。そもそもミステリというジャンルへの懐疑意識の豊富な人でしたが、懐疑意識自体をエンターテインメントとして取り込んでまさに見事な仕上がり。
登場人物にメタ的な探偵である意識を背負わせつつ、混乱させずにわかりやすいエンターテインメントになっている最大の理由は、とにかく文章が素晴らしく面白い、ということに尽きる。
いわゆる流麗な美文とは違うのだが、一文が長いのに、論旨が明快で、ユーモアに溢れていてわかりやすい。これはハカタ的には高島俊男に次ぐ名文家ですね。いいなあ。
プロット的にも、たとえば話の骨子としては、駄洒落大辞典を編纂した春狂亭猫介などは不要と思われるのだが、同じ駄洒落を執拗に登場させ、最後にはもはやそれなしでは成立しないようなパーツへと錯覚させる。なんなんだろう、この感覚。すべて計算のうえなら本当に頭のいい人ですね。そしてこれは絶対計算してやってるんでしょう。
参りました。今年のベスト級です。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:45 | comments(7) | trackbacks(0) |
<書評> 女王様と私
著者:歌野晶午
出版社:角川書店


ダメオタクが出会った女王様との目くるめくSM体験ミステリ!というような噂を聞いていたのですが、だいぶ違いました(笑)。
えーと、なんというのか説明不可能な変なお話です。なに言ってもネタバレになっちゃいそうな。
「葉桜の季節に君を想うということ」の歌野、という見方をされていると思いますが、もともと本格ミステリというカテゴリに対する懐疑意識の豊富な人で、「世界の終わり、あるいは始まり」といったかなり先鋭的な実験作もあり、本書は若干そこからスタンダードなミステリ寄りに仕上げた感じでしょうか。
このひねくれ具合、紛れもなく「歌野晶午」です。面白かった。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 23:42 | comments(8) | trackbacks(1) |
<書評> グール(上・下)
著者:マイケル・スレイド
出版社:東京創元社(創元推理文庫)


一部の好事家を熱狂させたもののあっさりと在庫切れ入手不可能と化した初期三部作「グール」「ヘッドハンター」「カットスロート」(この段階では伯方も読んでませんでした)。
その後シリーズ第二期が文春文庫で邦訳され、伯方はその二作「髑髏島の惨劇」「暗黒大陸の悪霊」でそのバカミスっぷりに見事ノックアウトされました。
当時の感想は旧サイトのここここに。
で、そっちでまた盛り上がってきたために昨年創元さんも「グール」を復刊! さらに二年ぶりに新作「斬首人の復讐」が刊行され、近日「ヘッドハンター」も復刊予定と、なかなか(相変わらず一部ですが)フィーバーしてます。
前振り長くてすみません。というわけで気分を盛り上げようと「グール」を読みました。
いやあーすっげえ(笑)!元祖ヘヴィメタル・スプラッター・本格ミステリ(元祖もなにもこんなんこいつだけか)。
ロンドンに跋扈する「吸血殺人鬼」「連続爆殺魔」「下水道殺人鬼」、海を隔てたカナダでも猟奇殺人。犯人が何人いるのかすらわからないぶっ飛び具合、クライマックスのアクロバット炸裂の強引な着地。合間を埋めるヘヴィメタルの轟音。もうサイコー!
ああ、早く「斬首人」を読みたいのだが、解説によると「ヘッドハンター」を読んでおいたほうがいいようなのでその復刊を待っているところです(10日発売予定)。いやー楽しみです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 11:11 | comments(8) | trackbacks(0) |
<書評> 孤立、無援
著者:阪本順治
出版社:ぴあ


現代映画監督のうちで唯一、僕がそのほぼ全作をリアルタイムで見続けているのが阪本順治です。
「どついたるねん」を最初に見たときの興奮は今でも覚えています。続く「鉄拳」のあまりにも確信犯的なめちゃくちゃさ、四作目「トカレフ」のこの人、人間的にやばいじゃないかと思うような屈折具合など、確かな演出力の裏側にある「阪本順二という人間性」の面白さを見てきたつもりです。
最新作「亡国のイージス」を機に、この本が出ました。正確には著作ではなく語り下ろしです。
俳優のキャリアを一度リセットしてしまうかのような、まったく新たな魅力を引き出す演出力(「王手」の加藤雅也を見よ!)、天邪鬼としか思えないガキのようなひねくれっぷり、石井聰亙や井筒和幸の助監督時代から「亡国のイージス」までたっぷり浸れます。
この言葉が、なんだか端的に彼を表している気がしたので引用しておきます。

後ろ向きに全力疾走。そんな気分だった。(「トカレフ」撮影時の気持ち)
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 08:20 | comments(9) | trackbacks(0) |
<書評> 日本怪奇小説傑作集1
編者:紀田順一郎/東雅夫
出版社:東京創元社(創元推理文庫)


全三巻のうちの一巻目です。
明治以降のホラーものの傑作を時代順に並べてあるので、この巻は小泉八雲、泉鏡花から始まり、夢野久作、佐藤春夫などまで。
僕は元来イマジネーションが足りないのか、小説で恐怖感を感じたことがあまりないのです。怖さのツボがどこかわからない、という感じで。
昔のキングなんかのわかりやすい怖さなんかはバリバリだったのですが、こういう日本的怪談風のもの、ふと思い返してぞっとするような感覚に対して鈍いのです。それが悔しい。
このアンソロジーも、なんとなく距離を置いたまま読み終えてしまいました。それでも巻頭の小泉八雲「茶碗の中」は、話のぶつ切れっぷりがすごくて、後味の悪さにちょっとぞっとしました。
ベストは村山槐多「悪魔の舌」ですね。こういうグロい話のほうが好きです(笑)。やはりホラー映画よりスプラッタが好きなのです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 07:58 | comments(9) | trackbacks(1) |
<書評> 震度0
著者:横山秀夫
出版社:朝日新聞社


横山秀夫の警察小説の新作です。ふふふ。
神戸を襲った震度6の大激震。そこから離れたN県警本部では、警務課長の失踪事件に揺れていた。若い女性と車に乗っていたとの目撃談が。
スキャンダルに発展しそうな事態に、本部長、警務部長、刑事部長、警備部長、生活安全部長、交通部長たちの密室での綱の引き合い。

刑事たちは、外では自らの組織のことを「カイシャ」と称する。
この話は、その通り警察もひとつの会社なんだ、ということを嫌というほど露呈する。派閥、人間関係の描写がエグイエグイ。
キャリア対叩き上げ、同期の出世争い、天下りポストを巡るおもねり…。
刻々と死者が増えていく神戸の状況を尻目に、腹を探り合い、敵味方が激しく入れ替わる。
いやあー地味。ホントに地味。ひたすら地味。そこがたまらない。
相変わらずキャラ立て、描き分けが見事。誰がどの情報を握り、何を欲しているのか、その辺の匙加減と舵取りが絶妙。面白かった!
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 01:27 | comments(8) | trackbacks(9) |
<書評> カインの檻
著者:ハーブ・チャップマン
出版社:文藝春秋(文春文庫)


なんだか面白そうなオーラが出ていたので読んでみました。
連続快楽殺人鬼を追うFBIプロファイラーという、(今となっては)やけに古臭い設定で、あれ〜と思っていると、なんと前半1/3ほどで犯人が判明して逮捕されてしまいます。
そしてなんと舞台は八年後へ。死刑執行を数日後に控えた犯人の獄中からの最後のあがきに応えるように現れる新しい殺人鬼。プロファイラーと遺族の交流。意志の弱い神父。など予断を許さない、緊張感ある展開が続きます。
最初、アクロバティックなトリックのある話を期待していたんですが、そういうものではなく、逆にストレートな部分に非常に驚かされました。
つまり、犯罪者にも事情があるんだとか、囚人の権利はとか叫ばれているが、「連続快楽殺人鬼など畜生であり、悪そのものなのだ」というきわめて保守的な、しかし強固に説得力のある思想に改めてスポットを当てている、という部分です。
これはかえって新しかった。
かなり面白かったのですが、ただ、ちょっと長すぎてダレ気味でした。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:20 | comments(6) | trackbacks(11) |
<書評> バースト・ゾーン ―爆裂地区
著者:吉村萬壱
出版社:早川書房


「ハリガネムシ」で二年前に芥川賞を受賞した著者の、初の書き下ろし長編がなぜハヤカワなんだ? と思って読んでみたら、なんとも不気味なSFだったのでした。
いつの時代なのか、現代と地続きの日本なのかどうかすらわからない国、『テロリン』と称する正体不明のテロリストにより絶えず攻撃され、戦意高揚の国家政策により志願兵となってテロリン撲滅のために『大陸』へと送られる国民。
だがなにも知らされないまま大陸へと送り込まれた兵士たちが遭遇するのは、『神充』という牛のような体を持ち、頭から出る管でヒトの脳みそを吸い上げてしまう化け物の集団だった。これが、テロリン?

キャラ設定やディティール描写に独特の癖というか、不快感をことさらに煽るようなところがあって、嫌な気分になるけど、でもなんともいえない魅力もあって、不思議な文体。
深いテーマがありそうでなさそうで、とにかくつかみ所のない話だけど、面白くないわけじゃない。だからといってべた褒めも出来ない。
なんとも厄介な本です。これだけの意味不明さをこれだけのテンションでこれだけの量を書けるのはすごいですが。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 14:04 | comments(13) | trackbacks(6) |
<書評> 本格ミステリ05 2005年本格短編ベストセレクション
編者:本格ミステリ作家クラブ
出版社:講談社(講談社ノベルス)


なかなか時間がなかったんですが、まあいくらなんでもこれは読んでおかねば、ということでようやく読了。
以下短評。

小林泰三「大きな森の小さな密室」
犯人当てとして問題編・解決編と別れているだけあって、最小限の情報量でタイトにまとまっていて心地よい。

山口雅也「黄昏時に鬼たちは」
上手い。ひきこもりの人々という難しい題材を使いながら、見事に「隠れ鬼」という遊びとテーマをリンクさせ、トリックも綺麗に決まった。

竹本健治「騒がしい密室」
ジュブナイル小説のようなキャラ設定や台詞が好みではないが、本格としてのまとまりは実に綺麗。傘のイニシャルに関してはちょっと疑問だが。

伯方雪日「覆面」
ノーコメント…。

柳広治「雲の南」
マルコ・ポーロが語り手だが、歴史モノ的な薀蓄はほぼ皆無なので妙に寓話めいたファンタジックなお話に。そのあやふやな世界観が二段構えの解決に上手く寄与。

三雲岳斗「二つの鍵」
こっちの探偵役はレオナルド・ダ・ヴィンチ。いわゆる「公開鍵暗号」を中世に持ち込んだ話で、考え抜かれた論理が美しい。お気に入り。

柄刀一「光る棺の中の白骨」
うーん、これも見事。扉を溶接した厳重な密室の中にあるはずのない白骨死体。オチはそんなことできるのか、とも思ったが、この奇抜で強引だがおもしれー!という発想はまさに柄刀ワールド。本書中ベスト。

鳥飼否宇「敬虔過ぎた狂信者」
この著者は初体験。なんとも妙な名前やキャラがヘンに胡散臭い世界だが、ネタは王道。なんだかミョーに後に残る作品だった。誰が探偵役なのかもよくわからないし。

高橋葉介「木乃伊の恋」
マンガ作品。あえてここに載せるようなものかよくわからないが、幻想的な謎と合理的な解決、という意味では確かに本格か。絵柄はあまり好きではないです。

天城一「密室作法」
評論。残念ながら未読の作品のネタバレ(というかこの型のトリックはこの作品に使われている、というような分類)が多く、ざっと流し読みしかできなかった。あまりにも古典を読んでいない自分が情けない。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 23:37 | comments(13) | trackbacks(0) |
<書評> 死亡推定時刻
著者:朔立木
出版社:光文社


いやーおもしろかった。
おもしろいのは大変結構なんですが、この本の場合、「えっ、そこでおもしろくていいの?」という感じ。

ある誘拐事件において、警察がとっさの身代金の受け渡しを拒否させ、結局被害者は死体で発見された。
被害者の父と癒着していた警察幹部は、警察の失態としないために、死亡推定時刻を身代金受け渡しより前に改変させた。つまり、「受け渡しに失敗したから犯人は怒って殺害した」可能性を隠蔽したのだ。
そして死体から金を盗んだだけの男が誘拐犯人として逮捕されてしまう。

こう書くと話はとても面白そうなんですが、実はこの本何が面白いって、ストーリーではなくて、とにかく微に入り細を穿つ警察の取り調べ、起訴、裁判の手続きなどの圧倒的リアルな描写なのです。
著者は弁護士か検事か知りませんが法曹界の人物らしく、冤罪が作られていく過程をこれでもかと積み重ねていきます。ここが滅法おもしろい。
次第に死亡推定時刻のテーマはなんかどうでもよくなっていってしまい、そっちのほうはわりと尻すぼみに。
というわけで、おもしろさは抜群なのに「そこじゃないだろ!」というヘンな本になってしまいました(笑)。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 13:57 | comments(10) | trackbacks(1) |
<書評> ベルカ、吠えないのか?
著者:古川日出男
出版社:文藝春秋


な、なんなんだこの話は。
発端は第二次大戦下のアリューシャン列島に置き去りにされたイヌたち。
彼らを祖とする末裔たちのたどる運命から朝鮮戦争、ベトナム戦争、メキシコマフィア、アフガン戦争、ロシア崩壊など現代史を捉えなおす、壮大なイヌ・クロニクル。もちろんイヌ紀元年は1957年、スプートニク二号にライカ犬が乗り込んだ年だ(笑)。
いやー変な話思いつくもんです。この発想力には脱帽します。
文章もなんというか、イヌに語りかけるような文体が時折妙な逸脱を見せて不思議な感覚を味わわせてくれる。
若干ついていけないところもあったのですが、そのイマジネーションと文体に強烈な吸引力がありました。
いや、凄いです。としかいえんな、この本。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:54 | comments(18) | trackbacks(1) |
<書評> 弥勒の掌
著者:我孫子武丸
出版社:文藝春秋(本格ミステリマスターズ)


我孫子武丸久しぶりの書き下ろし長編です。
遊びとかケレンとかは「邪魔邪魔!」とばかりに排除して、一発ネタへとつなぐ本筋だけをグイグイ進めます。
その辺が物足りない、と感じてしまうところでもあります。
ラストも、え、その終わり方でいいの?というなんだか急いで書き上げちゃった感が。
ネタ自体は、ああーなるほどね、ははは、やられた!て感じです(笑)。いや、ネタバレせずに説明しにくいもんで…。
そういう意味では面白かったのですが、やはりもう少し粘って書き込んだほうがもっと面白くなったんじゃないかなと思います。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 21:40 | comments(18) | trackbacks(0) |
<書評> 花まんま
著者:朱川湊人
出版社:文藝春秋


うわちゃあーこれは上手いわ。
ちょっぴりホラーで、たっぷり切ない短編集。
どの話も独立しているが、主人公が大阪の下町で過ごした子供時代の不思議な話を回想する、というのが共通のフォーマットで、おそらく三十〜四十代の関西人は軒並みツボじゃなかろうか。
パルナスの歌、コードつきリモコン戦車、文房具屋の店先にぶら下がるボールの入ったビニール袋、霊柩車が通ると親指を隠す風習……。
ひとつひとつの文章が特に流麗だったり冴えているわけではないのだが、全体として発する雰囲気が素晴らしい。
切なさベストは表題作「花まんま」、怖さベストは「妖精生物」。ラストの一文がとんでもなく怖いです。
同じパターンが続いて後半少し飽きてきましたが、それでも出色の短編集。
今年のベスト候補です。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 00:13 | comments(17) | trackbacks(2) |
<書評> 黒笑小説
著者:東野圭吾
出版社:集英社


うはは、これはイヤな短編集だ。
とくに、短編の新人賞を受賞しただけで舞い上がって作家気取りになってしまう男(「線香花火」)には我が身を省みて、笑うとともにもう身の置き所がなくなってしまうような羞恥を感じました。
他にも、あらゆるものがおっぱいに見えてしまう「巨乳症候群」、飲むと絶対に勃たない「インポグラ」など自由奔放でかつシニカルな短編ばかり。
「神狩り」というヘビーなテーマの後の息抜きにぴったりでした。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 21:41 | comments(16) | trackbacks(3) |
<書評> 神狩り2 リッパー
著者:山田正紀
出版社:徳間書店


ようやく読み終えました。労作です。
基本的に、若さの勢いで突っ走った前作の感覚的な主張に対し、SFとしてのある程度のリアリティを与えるバックボーンの積み重ねに主眼を置いたような感じ。
最先端のブレインサイエンスの知識を駆使して、脳が記憶や感覚をつかさどる装置ではなく、実は編集装置でしかないという理論を展開します。
つまり、メタ的な脳が存在する、それこそが<神>なのか…。
非常に面白い発想です。説明過多になって物語としての面白さが犠牲にされてしまった感がありますが、十分読み応えがありました。

それにしてもなんで「リップスティック」なんだろう。ここだけどうにも浮いているような気がするんですが。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 14:10 | comments(17) | trackbacks(0) |
<書評> 神狩り
著者:山田正紀
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)


およそ30年ぶりに出たパート2を読むために久しぶりに再読。
謎の古代文字から論理レベルの違う存在としての「神」の実在を確信する若き情報工学者。
協力者とともに人類の運命を操る神に対して戦いを挑む…。
「語りえないことに対しては沈黙しなければならない」というヴィトゲンシュタインのテーゼに真正面から挑む山田正紀のデビュー作。その瑞々しい感性が実に眩しい。
「それは、薊でなければならなかった」というオープニングは鳥肌もの。あっという間に世界に引き込まれます。
さて、ベテラン作家と化した著者が放つ「2」は如何に?
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:48 | comments(17) | trackbacks(0) |
<書評> モロッコ水晶の謎
著者:有栖川有栖
出版社:講談社(講談社ノベルス)


おなじみ国名シリーズの短編集です。
どれも目を見張るようなトリックやどんでん返しがあるわけではないですが、シリーズキャラの強みと、ちょっとした部分で小技が効いているのが実にニクいです。
表題作が上手いです。占い師という役柄を実に上手く物語に溶け込ませ、オチ部分での用い方も見事。
そんなところです。安定してますね。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 01:23 | comments(17) | trackbacks(1) |
<書評> 好き好き大好き超愛してる
著者:舞城王太郎
出版社:講談社


お気に入りマイジョウです。
芥川賞候補にもなった表題作と「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」の二作収録。
いやー、そろそろついていけなくなってきたかな(笑)。
これまでも奔放に好き勝手書いてきた人ではありますが、まだかろうじて地に足をつけているところがあったと思うのです。
それがもう今回は飛ばす飛ばす。
その独特の言葉回しによるドライブ感は健在なのでリーダビリティはすごいのですが、はっきり言ってまったくわけがわかりませんでした。
暴漢によって頭に突き刺されたプラスドライバーをきっかけに、世界を救う鍵となる少年の話(「ドリルホール…」)とかもう、シュール・ウルトラマンというかなんというか。わかんないでしょ。
それにしても、自らのイラストを数ページに渡りカラー掲載し、話によってフォントやレイアウトも異なればなんと紙質すら変えるという造本の凝りよう。こういうところにこだわる作家さんの感性って好きです。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 02:23 | comments(27) | trackbacks(5) |
<書評> 雨の午後の降霊会
著者:マーク・マクシェーン
出版社:東京創元社(創元推理文庫)


ロンドン郊外に住むある夫婦がたくらんだ誘拐事件。
目的は身代金ではなく、人質そのものでもない。
「霊媒師」である妻が、自らが誘拐した子供の居場所を「霊視」して、霊能力者としての評判を上げるための茶番だった。
うん、なかなか面白いストーリーです。
そしてこの話のなかなか危うい微妙さを醸しているのが、霊媒である妻は自分の能力を完全に信じていて、この犯罪はあくまでメジャーになるための現実的手段だと思っている点。
そして、重大犯罪にはじめて手を染める人間の緊張や間抜けっぷりのリアルさ。
犯人が計算しまくって完璧に動くようなありがちなものと違い、ちょっとしたミスを繰り返し、喘息の発作で死にそうになってる夫の情けなさはほとんどギャグで、同情の余地のないはずの夫婦に妙な思い入れを生じさせてしまう。
オチはまあ読める範囲ですが、二人の間抜けさにトドメを刺すものでした。わっはっは!
さらりと読めて、さらりと面白い本でした。うん。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 19:59 | comments(16) | trackbacks(1) |
<書評> ルパンの消息
著者:横山秀夫
出版社:光文社(カッパノベルス)


横山秀夫幻のデビュー作。
今はなきサントリーミステリー大賞で佳作を受賞するも刊行されなかったという作品を加筆したものです。
ああ、いいですね、実に。
確かに横山秀夫でありながら、なんともいえない若さが感じられる。
本格ミステリにおいては、基本的にトリックやどんでん返しを成立させることに主眼が置かれ、キャラクターや動機などはそのための小道具として強引な後付けをされることが多い。
横山秀夫はそこを処理するのが実に上手く、「本格ミステリであること」すら感じさせないほどだ。
本作でも「ん?」と思うところもあるにはあったが、話作りにおけるトップダウンとボトムアップの兼ね合いが絶妙。
拍手拍手。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 01:46 | comments(16) | trackbacks(4) |
<書評> 遺伝子と運命 夢と悪夢の分岐点
著者:ピーター・リトル
訳者:美宅成樹
出版社:講談社(講談社ブルーバックス)


親から受け継ぎ、そしてコピーノイズとして増加する遺伝子の変異。
生まれながらの遺伝子変異というものが、われわれの人生にどのように影響を与えているのか。
その点に特化して、現代科学の最先端からわかりやすく教えてくれる書。

・自殺も、遺伝子変異と関係がある(それだけが原因ではないが)。
・同性愛者の引き金となる遺伝子変異がある可能性がある。
・個性は遺伝子変異と環境によるが、兄弟姉妹のような環境の共有は実際はあまり個性に寄与しない。


などなど。
SF仕立ての短編を最初と最後に配置し、導入・まとめとして実に上手く構成されている。
ネタ本としてもいろいろ使えそうです。
ブルーバックスにしてはかなり厚い本でしたが、興味津々で読み終えました。


| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 21:28 | comments(18) | trackbacks(3) |
<書評> 月のパルス(全2巻)
著者:くらもちふさこ
出版社:集英社(クイーンズコミックス)


少女漫画はいろいろ読んできましたが、その中でもくらもちふさこはお気に入りです。
超ベテランの現在でも、常に新しいことに挑戦する攻撃的姿勢が素晴らしい。
たとえば「天然コケッコー」では主人公の女の子がいる中学校に東京からカッコいい転校生がやってくるという、ありがちな設定なのだが、実はその中学校はめっちゃ田舎で、転校生と同学年の子は主人公ひとりしかいないのだ(笑)! その二人でくっつくしかないじゃないかという逆転発想ラブコメだった。
今回の「月のパルス」でも逆転発想にチャレンジしている。
「一目ぼれ」から始まるラブコメは多いが、この作品では、「出会うまで」を重点的に描いているのだ。小さな小さな糸で繋がっているふたりなのだが、なかなか出会わない。
そう、「主役ふたりが出会う」、ということがこの作品のクライマックスに置かれていて、そこで終わる話。すげえな、この発想。
そして相変わらず小道具の使い方が天才的に上手い。「霊視」というアイテムを実に効果的に用いている。
いい仕事してますね。嬉しくなりました。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 09:31 | comments(19) | trackbacks(192) |
<書評> ギリシア・ローマの神話
著者:吉田敦彦
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)


ギリシア神話のエピソードってなんとなく応用範囲が広そうで、小説に使えそうなネタがあるに違いないと思って読んでみました。
とにかくこういう方面はまったく知らないので。
大方つまらないのだろうと思いつつも、意外と楽しく読み終えました。
おそらく著者が相当に噛み砕いて読みやすくしてくれていたのだと思います。
その分端から失われている情報も多いのでしょうが、まあ入門編ということでしかたない。
それにしても名前の区別がつかん! 誰が誰の子供だったかとか覚えてられん。もう何冊か読めばある程度認識できるようになるでしょうが。
あとゼウス、簡単に人類を作ったり絶滅させたりすんな!
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:30 | comments(17) | trackbacks(0) |
<書評> 明治探偵冒険小説集1 黒岩涙香集
著者:黒岩涙香(伊藤秀雄・編)
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)


面白そうだなあと思っていたら、友人から誕生日プレゼントとして頂戴しました。ありがとう!
涙香といえば、「巌窟王」や「ああ無情」の翻訳が有名(らしい)ですが、実は日本のミステリの元祖な人でもあります。
本書はその代表長編「幽霊塔」と短編「生命保険」を収録。
「幽霊塔」はイギリスの小説の翻案だそうで、舞台はイギリス。しかしこの頃の小説はわかりやすくするためなのかなのか、登場人物の名はすべて日本人になっています。しばらく舞台がイギリスとは気づかなかったよ。
ちなみに主人公の一人称は「余」です(笑)。
いや、これがなんというか面白いんですよ。書かれたのは1899年。うーん、漱石がデビューもしていない頃かよ。
もう、通俗の極みというか、危機また危機の連続サスペンス。新聞連載のわりにはさほど弛みもなく、物語の整合性も意外としっかりしている。

「生命保険」はさらに十年近く前に書かれた短編。いや、これは紛うことなき見事な本格ミステリです。
うむむ、いやあおもしろかった!
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 23:13 | comments(17) | trackbacks(2) |
<書評> アリスにお願い
著者:岩舘真理子
出版社:集英社(YOUNG YOU特別企画文庫)


往年の少女漫画はかなり好きで、高校、大学の頃は相当読み込んでいたのだが、岩舘真理子とはなぜかあまり縁がなく、「アリスにお願い」は当時えらく感動したわりには、他には「冷蔵庫にパイナップルパイ」くらいしか読んでいない。
今日ふらりとまんだらけに行ったので、実家ではすでに行方不明となっているこの本を買い直してみた。

やはりすごい。
綿密な伏線を張ったまったく無駄のない完璧なシナリオ、胸に突き刺さる切ないモノローグ、見事なキャラ造形と描写、触れれば消えてしまいそうな淡いタッチ、そしてなんという見事な「本格ミステリー」っぷり。
完璧です。完璧であるが故の脆さがまた切ない。

これはある意味僕が理想としている作劇法です。こんなの小説で書けたらいいだろうなあー。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:30 | comments(15) | trackbacks(12) |
<書評> 世界は密室でできている
著者:舞城王太郎
出版社:講談社(講談社文庫)


お気に入り作家、舞城王太郎です。
イマジネーションというのは、万人がある程度持っていると思うが、自分のイマジネーションを余すところなく表現できる才能は非常に限られている。
舞城はその才能に恵まれた稀有な一人。すばらしい。
もう密室とか犯人とかはどうでもいい、という奔放な姿勢が、決してヤケクソではなくあくまでさらりと表現されているのが最高にカッコいい。
荒いようで、実は結構デッサンがしっかりしている自らによるイラストも素敵。これからが実に気になる作家です。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 20:50 | comments(31) | trackbacks(7) |
<書評> ミステリオーソ/ハードボイルド
著者:原りょう
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫JA)


単行本「ミステリオーソ」に、その後書かれたエッセイや短編を加えて二分冊にした文庫。
ハードボイルド作家にしてジャズピアニストでもある原りょうのジャズ、映画、小説に関するエッセイ中心のごった煮本です。
いやあ、この人、めちゃくちゃに本読んでますねえ。一人の作家を発表順に全集を全部読むとか、信じられません。
日本ジャズ界の結構重鎮だったのも意外。いや、ジャズなんてまったく門外漢なんで。
まあしかし正直エッセイはあまり面白くなくて、やはり目当ては「ハードボイルド」巻末の「小説以外の沢崎シリーズ」です。シンプルでストイックな文体は、一行一行追っているだけでひしひしと幸せを感じます。
というわけで、昨年十年ぶりに出た新作「愚か者死すべし」(僕の昨年のベスト1)の次作は比較的早く出そうとのことで、震えて待ちます。
| 伯方雪日(はかたゆきひ) | 書評 | 22:49 | comments(19) | trackbacks(10) |